たらればの人生比較は難しい
「中学受験をして、よかったですか?」
子どもが受験生だという親から、たまにこう聞かれることがあります。そのような親は、大抵、我が子の中学受験を肯定してほしいですから、私も「はい、よかったです」と答えますが、正直にいうと、よくわかりません。
中学受験をしていない人生と、今の人生を比較することができないので、一概に答えることが難しいというのが本心です。
中学受験をするほうが良いかどうかは、住んでいる地域にもよるかもしれませんね。以下、東京の私立中学に行った私が考える中学受験のメリットとデメリットを見ていきたいと思います。
メリット
①受ける教育の選択肢が広がる
これが中学受験をする1番の動機である場合が多いと思います。教育レベルの高い学校に行きたい、と言うだけではなく、スポーツやダンスや芸能などの教育カリキュラムに力を入れている、サイエンス教育が充実していたり留学制度があるなど、自分の受けたい教育を選ぶことができます。教育カリキュラムだけではなく、学食がいい、かわいい/恰好いい制服がある、雰囲気が自分に合うなど、中学と高校と言う貴重な時間を過ごす学校世界を、自主的に選びとることができます。
②女子校、男子校が選べる
私立だと、女子校や男子校も多くあります。私自身、女子校に行きましたが、思春期を、異性の目を気にすることなくのびのびと過ごせた事は良かったと思います。とくに女性の場合、女子校の方が共学よりも自己肯定感が高くなるという調査結果もあります。
一方「社会に出れば男性も女性も、いろいろなジェンダーの人がいるので、早くからいろいろな性別の人がいるという社会経験を積んでほしい」という意見もあります。この意見ももっともだと思いますが、個人的には、だからこそ青春の一時期、異性の目を気にしないで過ごせる時間は貴重だったと思います。
③似たもの同士が集まる
中学受験を経て、その学校を選んできた時点で、ある種の共通項がある人が多いです。家庭環境が似ている、親の考えや職業が似ているなど。なので、比較的容易に似たもの同士を見つけることができ、友達ができやすいです。また、事前に学校の雰囲気を確認すれば、極端ないじめを受けたり、非行に走るなどの心配が少し減るのかもしれません。(いじめがないわけではありませんし、非行もありました。)
デメリット
①地元とのつながりが絶たれる
中学受験をして、地元の学区とは異なる学校に行くと、小学校まで一緒だった地元の友達とのつながりが希薄になることになります。小学校時代までを一緒に過ごした幼なじみと言うのは貴重で、生涯の友達になれたかもしれません。学校が違っても会えなくなるわけではないですが、少し寂しいですね。逆に、小学校でいじめを受けていた場合は、その人間関係を断ち切るために受験をする選択肢はあります。
②多様性がなくなる
これは、メリットの2点目「女子校、男子校が選べる」、3点目「似たもの同士が集まり、質が保たれる」の裏返しとも言えます。似たもの同士が集まる結果、いろいろな考え方をし、いろいろな進路に進む、いろいろな人生を生きている人との出会いが減ります。これを温室育ち、「育ちが良い」と評価するのか、「視野が狭い」と考えるか、親の価値観にもよると思います。これからの時代、このような旧来の日本社会の価値観や、日本の教育システムにとらわれず、日本を飛び出す位の考え方で生きていったほうが良いのかもしれません。
③機会損失を意識する
これは、特に偏差値の高い学校に行った場合に起こりやすいと思います。「こんなに頑張ってレベルが高い学校に入ったのだから、〇〇しなくてはならない(良い大学に入らなければならない、医学部に行かなければならないなど)」と言う思考が無意識に出来上がってしまいがちです。その結果、中学高校で出会った好きなことに、心のどこかで全力で取り組めなくなるかもしれません。例えば、進学校に入ってから、ダンスに夢中になり、ダンサーになりたいと思っても「自分が/家族が本当にダンサーになれるとは思えない。趣味に止めよう」という思考が働き、今の延長線上ではない選択肢は、本気で模索しなくなります。しかし、中学高校と言う人生の可能性を大きく広げる時間を、そのような思い込みに支配されてしまうのはもったいないことです。やりたいことに全力でぶつかればよかったのに、と、自分を振り返って思います。
終わりに
これらのデメリットは、目的意識をはっきりさせることである程度カバーできます。漠然と中学受験をするのではなく、自分はこの中学に何を求めるから入りたいのだ、と言う目的意識をはっきりとさせたいものです。
そして、中学受験が終わったあとは、どのような結果でも過去にとらわれず、自由に力強く、自分の道を切り開いていきましょう。道は長い、まだまだ始まったばかりです。大学など入らなくてもいい、勉強で身を立てなくてもいいのです。
中学受験をしている皆さんには、人生の貴重な「ティーンエージャー」時代を、親や社会の目を気にせず、やりたいことを見つけ、自分がどうすれば幸せになるかを知るために使ってほしいと思います。そのように家庭でもサポートしてほしいと思います。